レインファーム通信初夏号(2005)


  漆喰の壁

左官で壁をつくりたい。

そんな声が増えています。

ひんやりとした手触り、

  やさしい質感は素材の力そのもの。


珪藻土ってなあに?

      

ここ数年にわかに左官がブームとなっているようです。その代表が珪藻土。塗りやすく、風合いもいいということで、ハウスメーカーまでがこの材料を「自然素材」として宣伝しています。

「部屋の湿気を吸い、呼吸する」「ホルムアルデヒドを吸着する」というのが、主な利点とされています。

珪藻土は昔から日本でもなじみのある自然素材ですが、本来の使われ方は、耐火性を求められるかまどや、七輪に代表されます。珪藻土は堆積した塊を切り出したり、崩れた珪藻土を練り固めたりして使われてきました。それ自身は接着性がなく、すこし触っただけでもぼろぼろと崩れる、大変もろい素材です。もろいため、七輪には鉄の枠がついていたのを覚えている方も多いかと思います。レインファームのかまどの中にも、珪藻土のブロックが積まれていますが、火かき棒で軽くこすっただけで、粉が落ちてくるほどです。

珪藻土を壁に塗り、崩れにくくするために、各メーカーは固めるための材料を加えています。主なメーカー数社を調べてもわかりますが、珪藻土は全成分の20〜50%程度、残りは消石灰や、粘土、砂、炭酸カルシウム、すさ(麻などの繊維)、そして、接着成分であるEVA(酢酸ビニルエマルション)やMC(メチルセルロース)、割れ防止などの目的であるアクリルなどの樹脂を配合しています。

珪藻土を使うことを否定はしませんが、本来壁に塗るものではなかった、ということを知っていただければと思います。

古来からの左官である漆喰は今・・・。

千葉で左官材料の商店を昔からやっている人に伺った話です。

漆喰は石灰か、あさりや赤貝の殻を焼いてつくる貝灰に粘土、砂、海藻のり、すさ(麻の繊維)を混ぜ合わせたものですが、海藻のりを使う方法は日本古来の独特な方法のようです。

石灰や貝灰は水に混ぜて空気にさらされると反応して固まる性質をもっていて、そのため、お城の外壁や屋根瓦を固定するのに十分な強さを元々持っています。少し叩いたくらいではびくともしません。

さらに、漆喰に使われる海藻のりは、主にギンナンソウやツノマタという種類で、昔は現場で煮溶かして、左官やさんが仕事に併せて加減して混ぜていたものです。今の漆喰は工場で混ぜ合わせられた既製品がほとんどです。しかも、海藻のりではなく、合成糊を配合しているものも出回っています。塗り壁の宿命でもある、ひび割れを解消するために、合成樹脂を混ぜている「漆喰もどき」も同様です。日持ちさせるために防腐剤殺菌剤を入れるなど、漆喰の本来の姿とはずいぶん違っているのです。

「でも、湿気を吸い吐きしてくれるのでしょう?」そこも問題です。

海藻のりは壁が固まるにつれて、その成分が石灰となじんでいきますが、合成糊は石灰の表面にフィルム状に残り、石灰が時間とともに強靭に固まっていくのを邪魔してしまうばかりか、呼吸の役割も減らしてしまうのです。

また、現代の塗り壁は、昔の様に竹を組み、粘土をたっぷりと使った下地ではなく、全体の厚みから考えると、従来のような湿気の吸い吐き能力はそれほど期待できないと考えたほうがよいでしょう。ホルムアルデヒドについても、吸着能力に限界があります。

ただ、ビニル袋の中に暮らすような、現代のビニルクロスと比べれば格段の吸放湿性を持っていること、本物の漆喰であれば、安全性では最高ランクの素材であること、燃えても、捨てられても、環境を汚さないことから、非常に優れた素材です。

目新しい素材や流行に飛びつく前に、長い間人に使われてきた、漆喰の持つ本当の力をもう一度見直してみませんか。