特集       

ココチよい家に住みたい人のための

  カラダにやさしい塗料

自然塗料を使った内装

今の塗料がカラダによくないわけ

私達が普段何気なく触れている家具やドア、家の外壁などに塗られている塗料。
代表選手はウレタン、アクリル、メラミンといった石油からつくられた合成樹脂塗料です。
建築材料のみならず、箸やスプーン、お椀などの食器、テレビ、炊飯ジャーなどの電化製品、文房具、おもちゃなど、
とても身近なものにも同じように塗られています。


こうした塗料1缶のおよそ半分かそれ以上が、トルエンやキシレンといった有機溶剤。溶剤というのは、何かに色をつけたり、被膜で保護したいときに塗りやすいようにするために使われ、役割を果たすと空気中へ飛んでいくものです。

地球温暖化をはじめ、シックハウス症候群などの多くの問題を引き起こす、こうしたVOC(揮発性有機化合物)やホルムアルデヒドは日本での発生源の5割が塗料によるものです。
これらは目に見えないけれど、私達の吸っている空気に溶け込んでいきます。

また、乾いた塗装の膜は、石油から作られた合成樹脂、添加剤、色付けの顔料など。拡大してみると短い糸をくしゃくしゃにして絡み合わせたような形で固まっています。この塗膜の表面は常に摩擦や太陽光線など、自然の侵食を受けているので、絡み合いの糸切れたり、ほぐれたりして、空気中に飛び散ります。

例えば、よく学校の体育館の床に塗られている、ピカピカしたウレタン塗装などは、バスケットなどの激しい運動で摩耗し、飛び散ると考えられます。この原料であるイソシアネート類は、喘息など気管支に吸入されたときの毒性が非常に高いほか、中枢神経にも毒性を持ちます。中枢神経の毒性というのは、全身のだるさ、頭痛、肩こり、皮膚刺激、目の痛みなどの、原因がはっきりしないのに体のあちこちにいろいろな不調を訴える、いわゆる不定愁訴の原因になっている可能性があるものです。
予防するには、表示を確かめて、極力そういったものを使わないようにすることが確実です。

そして同時に暮している地域の人達にこのことを伝えていくことが、さらに自分達の健康を守ることにつながります。

というのも、こうした合成樹脂(プラスチック)で塗られたり貼られたりした製品がゴミとなったときに、再び問題を起こすからです。例えば、東京都内では不燃ごみ中継所で容積を小さくする圧縮作業をしていますが、このとき大気中には普通ならありえないはずのイソシアネートや猛毒のシアン化合物までもが検出されています。これらを原因として、中継所のある杉並区で体の異常を訴える人が多発していることはご存知の方も多いと思います。

こうした化学物質の発生源に、さまざまな身の回りの製品に塗られた塗料も含まれているわけです。
(余談ですが、これは偶然にも被害者にこの分野の専門の化学者がいたためにここまで分析できた稀な事件です。他の地域で同じことが起きていても単なる苦情で片付けられている可能性が大きいのです)

水性塗料の見分け方

では、トルエンやキシレンなどのVOCを使わず、水を溶剤とする水性塗料は本当に安全なのでしょうか?

誰でも知っていることですが、水を含んだものはカビが生えたり、腐ったりします。大手の塗料メーカーは長期間保管するために、水性塗料に強い防腐性を持たせる必要が出てきます。

先ほどのVOCの油性塗料の場合は、溶剤そのものが防腐性を持っているのですが、水性塗料は新たに防腐剤を添加せざるを得ないのです。殺菌や防腐のため、輸入レモンなどに撒かれる防腐剤のTBZ〔チアベンゾール〕やZPT(ジンクピリチオン)などが使われます。これは社団法人日本塗料工業会の報告書にも、“微量でも有害なものがあり使用には配慮が必要”とされています。但し、水を使う限りは最低限の防腐処理は必要なのもまた事実です。防腐剤の名前がわからなくても、長期保存できるものは避けておくほうが安心でしょう。

また、溶剤が水であっても、塗った被膜は相変わらずの合成樹脂なので、前述のとおり、乾いた後も人に有害な成分を出すことに変わりありません。合成樹脂を含まないものは各自然塗料メーカーが出しています。

環境面ですと、塗装道具や残った塗料を水で洗えるということで、油性塗料よりも安易に下水に流しているため、かえって川などを汚してしまうという面もあります。水性塗料でも成分によっては分解しないものが含まれているので、よく成分を確かめてみることをお勧めします。

ヨーロッパの人達は心地よい生活のために動き始めている

塗料や化粧品、家具、おもちゃ、車、クリーニング剤、プラスチック製品などの化学物質についての新たな規制が今年の6月1日からEU=ヨーロッパ共同体で始まりました。

10万種以上もある現在出回っている化学物質のうち、たくさん使われているものについてはメーカーが、自分達でその安全性をテストして情報を公開することが義務付けられることになります。

ところで、「いままではだれが安全性を確認していたの?」

答えは「誰もしていない」です。 正確には公の機関がしてはいますが、膨大な数のほんの一部しかできていません。一つの化学物質について人への安全性をテストするのはとてもお金と時間がかかるものだそうで、毎年どんどんでてくる物質にとても追いつかないのが現状です。ですから恐ろしいことですが、私達も疑問に思う塗料について、メーカーから安全データシート(MSDS)を取り寄せますが、「いまのところ有害性についての報告がない」「大量に摂取した場合ラットがどのくらい死んだ」「魚には毒がない」などの文章が並び、ヒトの安全を保証できるようなデータシートになっていません。

またここに載せる化学物質は全部ではなくてほんの一部の指定物質。あとは「増粘剤」「防かび剤」「光沢剤」などという抽象的な表現しか書かれていません。そこでメーカーに直接具体的な化学物質の名前を問い合わせてみても、「企業秘密なので公開できません」。実際メーカー側は、論文などでこれまで世に出ている情報を載せるだけで、自分達で安全性を証明する必要がないわけです。これは日本だけではなくて、欧米でも同じ状態が約40年続きました。

今回のEUの規制は化学メーカーにとっては大変な費用負担となるため、抵抗活動が強くて大分骨抜きになってしまったようです。それでもEUでは「化学物質が引き起こすと考えられるガンやアレルギー、不妊などの問題を減らすことにつながり、医療費削減など、国家の経済的利益となる」という考え方が主流となっていることが伺えます。

自然塗料を普通に使う生活

ヨーロッパではアメリカや日本より20年以上進んでいるこうした動きが自然塗料メーカーの数の多さにも現れています。溶剤にオレンジやレモンの皮のオイルを代用したり、合成でない本物の松の樹脂、植物オイル、土や石灰を使ったりした、自然塗料は環境にも体にもよいということで日本でも広まりつつあります。

例えばテーブルによく塗ってあるウレタン塗装。剥げてぼろぼろになったものを見かけます。ぼろぼろになる理由は、被膜が、呼吸する木の動きに付いていけずに木の表面から離れてしまうため。そもそも木には合わない塗料なのです。
一度塗ってしまうとこれを除去するには非常
に有害な薬品を使うことになります。
一方、自然塗料は木の動きに合っているので古くなっても風合いとなり、自分で安全に手入れできる点が優れています。
ただし、自然塗料の普及のハードルの一つとして、値段の問題があります。これは自然塗料同志でもその差は7倍にもなるケースがあります。壁用の水性自然塗料を実際に比較するために塗ってみましたが、品質に大きな差はなく、製造者というよりも輸入業者の上乗せが大きいのではないかと感じました。自然塗料をみんなの手の届くものにするのが今後の大きな課題です。

年間約180万トンも日本で作られている塗料のうち合成樹脂塗料はシンナーを含めて160万トンを超えます。

皆さんが選ぶ1割でも2割でも自然塗料に切り替えが進めば、毎年空気がきれいになっていくことは確実です。

レインファーム通信2007夏号