放置された米蔵
長年手を入れてもらえず、土が剥げかかった壁には、間に合わせの
トタン板がかぶせてありました。
東京都市部ではめったに見られなくなりましたが、少し郊外にいくと、
蔵のある家が見られます。中には、私達の蔵と同じ有様で、自然に
朽ち果てるのを待つだけといったものも。
私達が農家を手に入れたときも、米蔵は持ち主にさえ、
忘れ去られた存在となっていました。
蔵をどう直すか
最近見かける蔵の改修は、現代的な方法で、モルタルを塗り、仕上げは白ペンキを吹き付けるといったものから、
いわゆるパッとサイディングパネルを貼り付けるだけの簡易なものが多く見られます。
今回は今ある壁の外側に竹で井桁を組む「小舞(こまい)」を施し、
地元の泥壁用の土に「押し切り」と呼ぶ切断する道具で短くした
「わらすさ」を混ぜて練り合わせました。
大量の泥が必要なので、特設プールをこしらえて
泥に水を加えておきます。
こうして水を加えておくと、使うときに泥のダマがほぐれて
練りやすくなります。
場所場所でやり方は違うようですが、還暦を越えたうちの左官やさんは、
わらすさを使う少し前に加えます。先に泥に入れて発酵させるという人もいます。
今回は年内に塗り終わるべく、うちの左官やさんのやり方でつくりました。
竹は蔵の北側に生い茂る竹林から採ってきました。
竹割り器で3つ割4つ割にして、太さをだいたい揃えたものを
棕櫚縄で組んでいきます。
福島の工務店さんなどの話では、
地方では竹の小舞掻きも泥壁塗りも同じ職人が手がけることが多いよう
ですが、うちの職人さんのように小僧のころから東京に仕事に行っていた
人達は、小舞掻きと壁塗りは別々の職人の仕事に分かれていたようです。
地方ではとび職があまり専業化されていない一方、東京などでは昔から
とび職が成り立っていた、というのと同じようなことなのかもしれません。
ちなみにこの蔵の外壁を全部やるのに1週間。
竹割り作業がなければもっと早く終わるということです。
なぜいま竹と土なのか?
今の住宅は、外壁はパネルのような複合材料やペンキ吹き付け、部屋の中は、石膏ボードにビニルクロス
というのが大半。
私達がリフォームをしていく中でも最も問題になるのは、こうした複合材料や石膏ボードの処分のことです。
こうした材料は、産業廃棄物処理業者に引き取ってもらっていますが、再び資源として使えるのは、鉄、木材、
コンクリートガラ、ガラスなどです。
たくさんゴミとしてでてくる石膏ボードは現在、メーカーでは研究していますが、リサイクルはできていません。
一方こうした材料の処分費用は年々高くなり、捨てるもののために、改修する家のコストが上がる
といったことになりつつあります。
家庭ごみを有料化などという話題と同じことが建築業界でも起こっているのです。
これからは家を買うときのコストだけではなく、壊すときのコストを考えて材料を選ぶ時代
がきているのではないでしょうか。
リサイクルの問題がなく、日本中どこでも手に入る安価な材料として、竹と土で壁を造ることを
私達は大真面目に考えています。
かたつむり日記
化学物質過敏症(CS,MCS)と診断された患者さん達の避難宿泊施設が福島の猪苗代にできて、2年が経ちました。
毎年設計と施工に関わったメンバーが現地に集まって、患者さんたちの要望を聞き、
問題点を改善してゆくということをしています。今年もいってきました。
入居者のひとりから、雪の積もったときのために管理人さんが準備した、
目印のポールに反応すると聞きました。
ポールの先端にほんの少し蛍光塗料が塗ってあり、これが建物のなかにまで
入ってくるという訴えでした。
翌日竹さおに赤い布をつけた、代わりのポールに交換しましたが、
その方の体調はだいぶ崩れてしまったようでした。
とても信じられないほどの微量な化学物質に体が過剰反応してしまうこの病気ですが、猪苗代のような標高がある程度高い、
空気の澄んだ環境で暮すこと、農薬や添加物のない食生活、素材に配慮した住まいに寝起きすることで、ある程度までは
体の調子を整えることができるとわかってきています。
今年発表されましたが、千葉大学医学部でも実験的に入居施設を柏につくることになり、今後過敏症の人が逃げ込める場所は
少しずつですが増えてくるのではと希望が持てます。
ただ、最近思うことは、周囲の理解が十分あるかどうかが、患者さんの回復に少なからず影響を及ぼしているのではないか、
ということです。特にご家族などの身近な存在から苦しさを理解してもらえず、環境を改善しても思ったように良くならない
という状況の患者さんに出会うことがあります。一方かなり過酷な症状に苦しみながらも、家族に支えられて、
確実に改善している方もいます。
こうした患者さんたちを精神面からサポートするしくみが必要であることは、猪苗代以外のほかの避難施設でも同様で、
CSと関わる人達全てが感じていることではないかと思います。
安全性の高い建物をつくることはある程度できても、支える人のしくみづくりはこれからの大きな課題だと感じました。