レインファーム通信2005冬1号より
24時間換気で汚染は

防げるのでしょうか?
室内空気汚染
特集

24時間換気扇を回す家

前号では建築基準法によって、ほんの一部ではあるけれども、建築材料に安全性を求める基準が作られたという話をしました。

今回の法律にはもうひとつの規制があります。それは「換気」。

収納などは別として人の居住する空間については十分空気が入れ替わるように作るという趣旨ですが、実態として電気メーカーが換気扇を売り込むのに格好の法律となってしまいました。

従来の換気扇とは違う、24時間回りっぱなしの方式で「いつも室内空気を新鮮に保つ」というのが宣伝文句ですが、本当にこれで部屋の隅々、とくに私達が呼吸するエリアは空気が入れ替わっているのでしょうか?実はこれには落とし穴があるのです。

化学物質の溜まり場はどこにある?

5,6年前、私達はドイツに化学物質過敏症の対策を調べにいきました。まず部屋の中にどんな化学物質が漂っているのかを調べる方法ですが、日本では床から1.2m程度の、ちょうど人が呼吸するあたりの高さの空気を機械で吸い取ったりして実験室に持ち帰り、分析にかけますが、ドイツの化学物質専門の測定会社は何をしているかというと、床にたまった埃を集めて、

ここから抽出される化学物質を分析していたのです。一見すると日本の方法が呼吸する実態に即しているように感じますが、そうではないのです。私達にとって有害とされる化学物質の多くは比重が重いので、普通は床付近に滞留するという性質があります。日本で空気測定の現場を何度も見ていますが、測定の条件を整えるために、一定の換気をした後は誰も立ち入らずに閉切った状態を作って、それから測定が開始されます。この方法では化学物質の多くは下の方に沈んでしまい、部屋に存在する化学物質の実態を正確に把握することは難しいのです。

このことを知っているため、ドイツの人達は床の埃を分析しているのでした。


人が住む環境では部屋の空気は人や設備などの動きで常に空気が動いている状態ですから、床付近の空気も動きによって呼吸に入ってくるのは、ごく自然なことでしょう。日本の測定方法は濁った水の上澄みだけを分析しているようなものだと私達は感じました。

実際、私達が出会ってきた化学物質過敏症の方々は、床に近い位置で眠ることをとても嫌がります。彼らのような「人間分析器」レベルの感度がある場合、室内の空気に化学物質の濃度の層があることを感じ取ることができるようです。

私達はこのことを踏まえ、重度の場合なるべく低い位置での空気測定をしたり、場合によっては、原因と考えられる建材そのものを削り取って成分分析にかけたりして、化学物質の分析をします。(写真参照)

どこを換気しているの?

話はもどりますが、換気扇を24時間回すと確かにある程度空気は入れ替わるでしょう。但し、換気扇をつけるなら、床から30pくらいの高さにつけるのが、本来の目的には必要です。

普通換気扇は天井から少し下がったところ、だいたい2mくらいの高さにつけるのが常識になっているのですが、これでは比重の重い化学物質は排気できないわけです。

換気扇を回すことが悪いわけではないのですが、本来の目的からすると電気の無駄になってしまうことがわかっていただけると思います。

どこまでいくの?漂う殺虫剤

これと関連して、室内で撒かれるゴキブリ駆除スプレーとか、トイレの匂い消しのパラジクロルベンゼンといった、住まいで使われる薬剤がどういう動きをしているのかという、面白い実験を東京都生活文化局が平成4年および8年に報告としてまとめています。

この報告書でとても興味深いことが書かれています。

たとえば北側の端にあるトイレの固形芳香剤の成分がトイレ内にとどまらず、2,3時間かけて南の反対側にある部屋にまで到達していることや、エアゾール製品(スプレー殺虫剤、ヘアスプレー、殺菌消毒スプレーなど)を使った後換気をしても、閉めると室内の絨毯やカーテンなどに付着していた分がまた出てきてしまうケースがあることなどです。

特に揮発しにくい殺虫剤などは壁面や家具に付着して、長期間再放出される可能性が高いとしています。

また煙で家中のゴキブリを追い出すというくん煙剤なども、窓を開けても閉めるとまた元の濃度レベルに戻るそうです。

こうした家庭用の「不快害虫用殺虫剤」と呼ばれる薬剤については、成分は農薬と同じものが多いのですが、農薬取締法の規制対象にはなりません。また薬事法にもひっかかりません。法律上はいくら使ってもいいという恐ろしいことになっています。メーカー団体の自主基準はありますが、強制力はありません。

こうした何気なく使われる薬剤は、建築材料以上に住まいの空気を汚染している原因となっていることを、ぜひ使う前に意識していただければと思います。