化学物質過敏症患者の避難施設受け入れ始まる

レインファームの母体であるテクノプラン建築事務所ではもともとアレルギーの方々の住まいを作ってきましたが、10年ほど前からは化学物質過敏症の方の相談を受けることが多くなりました。私たちは、患者さんたちの生活調査を始めとし、国内の室内環境学会や臨床環境医学会などの文献を調べ、過去5年間の間にドイツやオーストラリアで治療にあたっておられる医師たちを現地に訪ねる等、その実態を調査してきました。そして今回空気清浄機の会社である新菱エコビジネスの依頼により、福島県猪苗代に5棟の建物の設計監修を担当しました。

立地条件

避難に適した立地を探すことは通常の場合容易ではありません。患者さんたちの多くは自分の住まいに寄り付けず、古い日本旅館を泊まり歩いたり、果ては古い自動車の中で寝泊りするケースも少なくありません。そうするうちにますます体力や資金も底をつき、追い詰められてしまうといったこともあります。まず、体力をつけて、落ち着く場所を提供することが患者さんたちへの急務となっていました。

まず必要なのは、取り入れる外気が汚染されていないこと。都会を避け、田舎の土地を選ぶ場合には、田畑の農薬散布状況を調べる、ゴルフ場がないか、ゴミ処理場がないか、などを確認する必要があります。また地形的に標高の高いところほど空気がきれいであること、空気が滞留しにくいことなどから、今回の山の斜面にある土地が避難場所に比較的適していると判断されました。ただし、敷地内を高圧電線が通過していることから、一定距離を置いて建築することにしました。

建材の選定

実際は一人一人反応するものが異なるのが過敏症の特徴ですが、今回は電車や車を利用して猪苗代までの移動に耐えられる程度の(中程度)の患者さんを想定した。(それ以上の過敏症の方は、移動が困難なのが通常である。)材料はすべて放散物質の最も少ない素材から、実際に施工可能なものを選びました。

戸建の場合は、その患者さんに一つ一つ建材のサンプルをお渡しして、反応を見てもらい、使えるものを絞ってゆくのですが、今回は極限まで匂いの少ないものに限定しています。

床は、タイル貼りで、ドイツ製の自然接着剤で貼り付け、壁はにがりの成分からできる炭入りの左官材料を塗り、表面はネパールで手漉きされている無漂白の紙を貼っています。(写真)建具にはアルミを使い、木を使うところは、匂いの放散の少ないナラを使いました。市場に出回っているナラ材は虫が入りやすいなどの理由で防虫処理されているものがあるため、製材工場まで確認を取る必要があります.
今回は工務店が所有している山から直接伐採したものに限定しました。壁紙の接着剤は一般的には酢酸ビニルや防腐剤が添加されていますが、私たちはメチルセルロースという、木材から取り出した天然の接着成分のみからなる接着剤を使用しています。


設備機器からの放散



キッチンは通常もっとも汚染物質の出やすい設備のひとつです。ガスのコンロからの排気、水道からの塩素、システムキッチンのキャビネットからの塗料、接着剤。過敏症の方はそれらのもののために調理がままならないので、ここではステンレス製の厨房セットを特注しています。ステンレス製のシステムキッチンは出回っていますが、実は天板の裏には大量の接着剤をつかった合板の下地が入っており、オールステンレスというのは実はうそです。ステンレスを合板に接着するときの接着剤も問題です。今回はプロ用の分厚いステンレス板を使い、合板などは一切つかっていません。実はステンレス自体の臭いもあり、患者さんによっては反応する人もいます。この場合は数回水ブキをしてもらうことで改善できるケースが多くあります.
暖房は温水の床暖房としました。患者さんの多くは寒冷に対して非常に弱い反面、エアコンや石油ストーブ、電気ストーブなどは、臭いが出て使えません。
電磁波に反応する方も多いので、配線はすべて電磁波シールド線としました。
テレビからの臭いはガラスケースに入れて、外に排気しています。(写真)


生活用品


カーテンや寝具などは患者さんにとって難しい問題です。布の臭いに反応してしまうため、患者さんの中には布団がなく、冬でも使い古したタオルケットだけという方もいます。ここでは自分の使えるものを持ち込んでもらうことにしました。またカーテンは寒さ対策のためにも必要なので、オーガニックコットンに洗剤を使わない方法で脱脂したものとしました。オーガニックコットンのもつ自然の油分にも反応するからです。

紙面の関係上、駆け足での説明でした。また次号以降で取り上げたいと思っています。過敏症にならないための日ごろの注意なども合わせて。



化学物質過敏症の方のための避難施設(福島県猪苗代町)
レインファーム通信2004年4月号
特集 

化学物質過敏症を知る